意義は解るが厄介な株券電子化

 2005年1月5日から上場株式の電子化が行われた。
株式の管理コストを引き下げ、偽造株券が出回るリスクをなくすという思想は解る。
管理コスト引き下げの経済効果は1000億円とも言われるから、その金が配当や有益な投資に回るのは歓迎だ。
経済という観点から困るのは、株券ゆうパックからの撤退を強いられる郵便局ぐらいだろうか。
郵便局はネットオークションや通販の市場拡大で潤っているのだから大して気にしていないかも知れない。
それなりに利点の多い株券電子化だが、この度導入された制度には問題点も多い。

最大の問題点は、置き去りにされる株主や企業の存在だ。

例えば私の身辺について言えば、金持ちというには程遠いがいくらかの株を抱えたまま認知症になっている年寄りが居る。
認知症(もと痴呆症)の老人はなかなか正常な損得判断が出来ない。
調子が良く一応判断可能なときでも記憶が5分しか保たず、よって自分の保有株を把握できない。
こんなざまでは取引が不可能だから、上がろうが下がろうが塩漬けだ。
売買意志がないから証券会社に預けない。
昨年何度も「電子化ですよ、タンス株は・・・」としつこくDMが来たって「売り買いしないのだから株屋に用はない」と無視だ。
幸い、うちの年寄りは配当入金状況などから名義がきちんと自己名義になっていると思われるので、タンスが特別口座に変わろうが実害はない。
だが、もしも呆けてから配偶者の株を相続したような人だったら名義の放置が問題となっただろう。
電子化の準備期間において、ただDMだけ出しておけば済むと思っているような発行会社や管理受託信託銀行の姿勢は遺憾である。
株主数が多い上場会社にとって大変な手間なのは解るが、証券市場の都合で仕組みを変える以上は古くからの出資者に相応の対応をすべきだ。
少なくとも10年以上何の異動手続きもしていない株主については、名義放置がないか個別に確認すべきであった。

非上場会社の置き去りについても大いに問題がある。
近年、西武鉄道やライブドアなど不祥事を原因として倒産したわけでもないのに多数の一般株主を抱えたまま上場廃止となる事件があった。
不祥事でなくMBOによる自発的上場廃止も行われているが、買い取りに応じない一般株主は必ず残る。
中には買い取りに応じる判断能力を失っている高齢株主もいるだろう。
上場廃止企業は保管振り替え機構から追い出され、紙の株券を発行せざるを得なくなる。
株券電子化制度は保管振り替えと一体の制度だから上場廃止会社は自動的に対象外となった。
このために多数の株主が居ながら、なお偽造株券のリスクを抱えた会社が存在している。
当然管理コストも従来通りかかる。
ただでさえ非上場会社は配当課税優遇がないなど元から不利があるのにさらなるハンデ増加は不公平すぎるのではないか。
不祥事による上場廃止なんか身から出た錆、株を買う以上あらゆるリスクは当然承知、潰れて紙くずにならなかっただけありがたいと思えということか。
だがそれで良いのか?。
ある業種の将来性といった一般常識に基づく経済判断に関して株主がリスクを負うのは当然である。
しかし、創業家による株式名義偽装などは経済判断と次元が違いすぎるのではないか?。
不祥事を起こしたオーナーがペナルティを受けるのは当然だが、一般株主の被った巻き添え被害が大きすぎる。

株券電子化は証券業界の都合で導入された制度だ。
保管振り替え機構の経費も証券業界が負担している。
証券業界にとって、売買手数料を払わない塩漬け高齢株主や上場廃止会社は存在しないも同然かも知れない。
だが株券電子化は法改正を伴って導入されている。
即ち、証券業界とその利用者に閉じた私的制度ではなく、国会決議に基づく公的制度だ。
公的制度である以上、証券業界の都合しか考えない制度であって良いはずはなく、全ての企業と出資者にとって公平な制度でなければいけなかった。
例えば、タンス株の特別口座化と同じプロセスを用いれば非上場会社の株を電子化することは簡単だったはずだ。
例えば、対象を「上場会社」ではなく「定款に株式譲渡制限がない会社」としておけば良かったのだ。
政治献金と陳情をする業界の都合だけ考えて法改正を行った国会の姿勢も甚だ遺憾である。

果たして国がこんな姿勢のままで、「貯蓄から投資へ」なんて掛け声だけ言われてホイホイ乗る年寄りがどれだけ居るのだろうか?。

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