複雑怪奇な介護費用の医療費控除

1年間で10万円以上の医療費を負担したときは確定申告すれば所得税の課税所得から差し引かれると言うことは誰でも知っている。
だが、その「医療費」の定義はいわゆる「医療機関に払った治療代」だけではないし「保険診療」だけでもないので実際の計算は複雑になる。
例えば、
・風邪をひいたり、水虫ができて売薬で治療した場合の薬代。
・風邪で弱ったときに補給したドリンク剤の代金(単なる疲労はダメ)。
・通院交通費(体調が悪くてタクシー利用ならタクシーも可、マイカーのガソリン代・駐車料金はダメ)。
は対象になる。
売薬だけで10万円も使うことは滅多に無いだろうが、家族の入院などで既に10万円を超えているとき加算するのを忘れないようにしたいものだ。

ここまでは直接に怪我や病気でかかる金だからまだ解りやすい。
わけがわからなくなるのは介護費用だ。
例えば、
・介護保険適用の訪問看護
・訪問リハビリテーション
・通所リハビリテーション【医療機関でのデイサービス】
これらは素人目に見ても医療行為だから対象になるのも当然だろう。

そのほか
・介護予防訪問看護
・介護予防訪問リハビリテーション
・居宅療養管理指導【医師等による管理・指導】
・介護予防居宅療養管理指導
・介護予防通所リハビリテーション
・短期入所療養介護【ショートステイ】
・介護予防短期入所療養介護
も控除対象だ。
予防は医療費と認められないという一般常識がここでは通じない。

ややこしいのは条件付きで控除対象になるサービスで、
・訪問介護【ホームヘルプサービス】(生活援助(調理、洗濯、掃除等の家事の援助)中心型を除く。)
・夜間対応型訪問介護
・介護予防訪問介護
・訪問入浴介護
・介護予防訪問入浴介護
・通所介護【デイサービス】
・認知症対応型通所介護
・小規模多機能型居宅介護
・介護予防通所介護
・介護予防認知症対応型通所介護
・介護予防小規模多機能型居宅介護
・短期入所生活介護【ショートステイ】
・介護予防短期入所生活介護
は上記の「対象」サービスとセットでのみ控除になる。

「生活援助(調理、洗濯、掃除等の家事の援助)中心型を除く」というのがくせ者だ。
痴呆老人だとそこそこ体は動いても誰かが指図しなければ食事も薬も一切取らず寝ていたりしてしまう場合がある。
これを野放しにしたら餓死するか、少なくとも薬切れで痴呆状態が悪化するかられっきとした自傷行為だ。
自傷行為はすべて自殺未遂事件と法的に同じとして扱われる筈だ。
本来なら警察の手で精神病院に連れて行かれて強制入院させられる。
たまたま他人に危害を及ぼす行動がないから目こぼしされて、一応自宅介護で済んでいるに過ぎない。
つまり訪問介護が精神病院の肩代わりをしている状態である。
ただ薬を飲むように指図しに来るだけなら自己負担全額が控除対象になる。
ところが、現実問題それだけだと作業時間が細切れ過ぎてヘルパーの手配が不可能だ。
機嫌が悪いとヘルパーの言うことを拒否し手間取ることもあるから時間の余裕も必要になる。
ヘルパーが来れば不潔な生活態度や菓子しか食べないといった偏食が問題になる。
それを放っておけないから掃除や買い出し、調理をせざるを得ない。
その結果、身体介護30分、家事援助1時間となって家事援助が多いから殆ど控除対象外だ。
呆けが進むと訪問介護は朝夕2度必要になってくる。
介護保険の上限を超過するから自費分が加わって負担は年金手取りを上回る。
措置入院なら全額公費だし、消極的であっても自傷行為があればその資格も満たすのにだ。
本質は精神病院の肩代わりなのに負担の所得控除すら出来ないのは実に不公平だ。

全く対象にならないのが
・認知症対応型共同生活介護【認知症高齢者グループホーム】
・介護予防認知症対応型共同生活介護
・特定施設入居者生活介護【有料老人ホーム等】
・地域密着型特定施設入居者生活介護
・介護予防特定施設入居者生活介護
・福祉用具貸与
・介護予防福祉用具貸与
だがなんでこれがダメかと思うものも含まれている。
例えば車いすのレンタル代は対象外だ。
うちの伯母なんか、一応歩けるのだが遅すぎて通院で歩かせると付き添いのヘルパーが所定作業時間を超過になるため車いすを借りざるを得ない。
つまり実態は通院交通費なのだが名目上ダメということになってしまうわけで、これは不公平な気がする。

そして極めつけの不条理
訪問介護(身体介護)が控除対象になるのは介護保険利用分だけで、介護保険限度額超過による全額自費分は控除できない。

これは酷い。
限度超過は贅沢ではないのだ。
呆けが酷くなると一日二回はヘルパーが見に来ないとどんな乱れた生活をするか判らない。
ところが、首から下に何も病気がない認知症のみの状態では要介護等級が3止まりだ。
要介護3で週3回デイケア、訪問介護毎日朝夕、訪問看護月2だと限度額を大幅に超過し自己負担月額は10万円を超える。
その超過分を何のサービスに割り当てるかで税金に差がついてしまう。
デイケアはリハビリ付きでなければ介護保険利用の有無にかかわらず控除できない。
訪問看護は売薬と同じ扱いで全額自費だろうと控除できる。
訪問介護だけが限度内と超過分で控除可否が分かれるというおかしな制度になっているからだ。
自衛策はなるべく超過分をデイケアと訪問看護に割り当てることだが、割り当てを決めるケアマネには税の知識がない。
不公平をなくすためにケアマネ事務所は税理士とでも提携すべきだが、現在の報酬ではそんなコストは考慮されていないのだ。
こんな難しいことは呆け老人が自力で気付けるわけがないから、たまたま周囲の者が気付いてケアマネに注意しなければかなり損をする。
税法とは随分理不尽なものだ。


参考:国税庁HP 医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価

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